言葉にならない思いを○○に。

生まれて初めて買ったいわゆるDCブランドの洋服は、ヨージ ヤマモト。
y’sというブランド名だ。
大学1年のときだったか、バイト代をためて買ったコート。当時の周囲の影響もあった。哲学や美学を学ぶ若者には、これらのデザイナーは憧れであった。
その頃、このワイズや、コムデギャルソンは、それまでの華やかなデザインとは
全く違って、黒ベースのシンプル、でも主張ありげなデザイン・・・。そこが
当時、若き自分をくすぐった。こんな服をきて、背伸びした自分を見せたい。他とは違う自分を表現したい・・・なんて、そんな気持ちがあったと思う。
あのコートは結局20年以上、着続けた。
あの頃から、山本耀司も川久保玲も憧れであったが、社会人になって機能性が必要になり、イッセイミヤケを愛用するようになったが、それでもワイズもずっと好きであり続けている。この世代の日本のデザイナー先生は本当に素晴らしいと心から尊敬し続けている。世界に誇る偉人たちである。
ヨージヤマモト。経営が大変だと聞いた時代もあったが、どうやら最近は売り上げが好調とのことで何よりだ。若者たちが、黒いワイズの服を着ることで、自分の生き方を変えたり、新たなことに挑戦したりしているようだ。自分が若いときと同じだ。時代が戻っている。ただ、昔と違うのは、彼らがワイズの良さを国を越えて、SNSで拡散していること。この時代に、ワイズは今また新しく育っているわけだ。中国の若者が反権力のしるしとして愛用しているのも印象的だった。

その山本氏は、もう70代後半だそうだ。今もずっと変わらずおしゃれだ。
先日見聞きしたインタビューでぐっとくる会話があった。
「もうそろそろの年なので、ずっと思ってきたことを表現しなくちゃと思っている。政治や社会についてのメッセージについても。言葉では言えない(言葉にならない)ことを、洋服で伝えたいと思っている・・・。」といった趣旨の内容。

凄い。言葉にならないメッセージ、あるいは言葉にしてしまうと、ただそれだけになってしまうことを、自分なりにしっかり自分らしく表現する。これが仕上げの仕事というわけだ。

洋服はメッセージツールであり、メディアなのだ。
なるほど・・・。最近の洋服には文字が入ったものや、カタチやモチーフ等で深い意味があったり・・・。ひとつひとつにすべて意図があるのだ。それをモデルが、お客が着用することで、そのメッセージが広がる・・・。
パリコレを見た記者が、これはデザイナーの仕事でなく、アーチストではないかと評していたたが、山本氏は「いえ、わたしは服屋です」と言い切ったその表情も、とても素敵であった。

言いたいことを、何で表現するのか。私は??
五感で、自分の得意な領域で、メッセージを伝える。何で?
確かに、言葉以外で伝えた方が伝わることが多い。
人生の先輩たちが、まだまだ現役でその仕事に取り組む姿を見て、まだまだこれからだと勇気も沸いてくる。

改めて、山本氏の偉大な仕事について、心から敬意を表したい。
今、国内外の若者が山本氏の洋服を着て、社会にアンチの姿勢を示したり、
おしゃれに自己表現をしている。
生き方のお手伝いができるなんて、素敵すぎる仕事。

言葉にならないことを、伝える。山本さんのようにはできないが、私なりに・・。
ああ、もう処分してしまったはずの昔のコートが、急に懐かしくなってきた。


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