最後の注文の年末。

1年を無事に過ごせることは、そしてそのまま新年を元気に迎えることができることは
何よりの幸せで、実はとても贅沢なことだ。
年内で会社を廃業される方や、大切な方を失くし、さみしい思いで年越しをされる方の心中を
察すると、飲んで騒いでわいがやの年末だけではない、年越しがあるのだということを思う。

この17年間、名刺をずっと注文してきた会社。
実は最初はある文具屋さんを通じて注文していたが、そこが廃業されたため、今度は直接
注文してきた。メールでのやりとり、宅配便での納品に、代引きでの支払い。
それだけで十年以上、お願いしてきた。福岡にある印刷会社だ。
名刺は大切なコミュニケーションツールなので、とデザインはもちろん、紙にも凝って・・
そこはケチらずにやってきた。そして、好評いただいてきたわが名刺。
紫色と赤色のトレーシングペーパーの2種。生涯これでと思っていた。

その会社から郵便が届く。諸事情により、年内で廃業されるとのこと。
へえ~~。それは困った。これと同じようにできるところあるのかな。(あるとは思うが)
でも、ここのが好きだった。
すぐ在庫を見て、メールじゃダメだと思い、電話をした。
状況を確認し、即注文をした。
いうなれば「最後の注文」。
予想どおり、紙の在庫がある分の範囲での注文となった。

顔も見たことがない、担当者からご不便をおかけして・・とお詫びのメッセージ。
そして最後の注文・・・の確認。

なんとも胸がいっぱいになり、またここで作った名刺1枚1枚が急に大切に
思えてきた。
もう、無駄使いをしたらいけない。大切に使わなきゃいけない。

と、そんなことを思いながら、引き出しを整理。

おそらく、日本中で、この年末に廃業される会社はたくさんあるだろう。
それぞれの終わり方、それぞれの最後の注文。

ある上場企業の方がその昔、人間の命は限りがあるが、企業には終わりはない。
と言われていた。もちろんそうありたい気持ちはよくわかるが、
ほとんどの会社がいつか終わる。

恐らく廃業案内を出したあと、駆け込み注文が続いているはずだ。
ご担当の方たちは、この最後の注文に対し、どんな思いでかかわっておられることかと
思うと複雑な気持ちになる。

長い間、素敵な名刺をつくっていただき、ほんとうにありがとうございました。
これからも、大切に使わせていただきます。

顔も見ていないのに、1枚の名刺の向こうに、九州にあるその会社の担当者の顔が
ふと見えた気がした。そして注文メールの最後に
「私も印刷会社で働いていた時代があるので、他人事と思えません。
次の出発先がわかったら、ぜひお知らせください」
と書く。

最後の注文の名刺を待つ、年末。
いろんな年末がある。

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